この記事ではウイスキーの香りの由来を製造工程別に解説しています。最後まで読み進めると
「このウイスキーは口当たりが軽いな…蒸留器が大きかったのかな?」
「生臭い香りがするぞ!ミドルカットを失敗したのか!?」
なんて話ができるように。興味のある方は是非最後までご覧下さい。
ウイスキーの香りはナニ由来?|香りまとめ
まずは概要から。以下の表をご覧下さい。
ウイスキーの香り
工程別・与えられる香味
▼製造工程▼ | ▼与えられる香味▼ |
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原料 | 大麦麦芽:トースト、トフィー トウモロコシ:バニラ、メープルシロップ ライ麦:胡椒 小 麦:蜂蜜をかけた全粒パン |
仕込み水 | -(香味への影響は限りなく薄いと言われています) |
精麦 | トースト、ビスケット ピート(アイラ):海藻、潮 ピート(アイランズ):花 ピート(ハイランド):樹木 |
発酵 | 果実、花、穀物、植物 |
蒸留 | 果実味、草、穀物、柑橘、革、タバコ、蝋、生臭さ、ピート、煙 |
熟成 | バニラ、果実味、花、ココナッツ |
熟成|米 | バニラ、キャラメル |
熟成|英 | 軽い渋み、スパイス |
熟成|シェリー樽 | 干しぶどう、プラム、ナッツ、ワイン様のタンニン |
チャーリング | アーモンド、トースト、カラメル、蜂蜜、バニラ、煙、クローブ |
樽の大きさ | 小:ダイナミック 大:上品 |
樽の再利用回数 | 少:影響大 多:影響少 |
次項からは工程ごとにより詳しく説明します。
原料由来の香り|トースト等
原料の質はデンプンの量と香りの力で決まります。大麦麦芽からはトースト、トフィー。トウモロコシからはバニラ、メープルシロップ。ライ麦は胡椒、小麦は蜂蜜をかけた全粒パンの香りが生まれると言われています。
・原料由来の香り・
大麦麦芽 | トースト、トフィー |
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トウモロコシ | バニラ、メープルシロップ |
ライ麦 | 胡椒 |
小麦 | 蜂蜜をかけた全粒パン |
水由来の香り|少ない
水由来の香りはほとんど無いとする意見が一般的です。アイラ島におけるピートが染み込んだ茶褐色の水でさえその影響は2%以下と言われています。
水に求めているのは発酵時にどれだけ菌と酵母を理想通りに働かせられるかという事。すなわちミネラルとpH値、そして清潔さが重要です。
精麦工程由来の香り|煙と潮、花、樹木
精麦時にはトーストやビスケットの風味が生じます。これは乾燥時のメイラード反応によりアミノ酸と糖が反応する事が原因です。また、ピート(泥炭)を使用した際には独特のスモーキーな香りが付与されます。ピートの生産地によっては付与される香りが異なるのも特徴です。
具体的には、アイラ島のピートを使用した場合は海洋植物と海塩の香りが付与されます。オークニー諸島のピートからはヘザーによるフローラルなスモーキーさが。ハイランドのピートには樹木を燃やした煙の香りがするとされています。
精麦工程由来の香り
ノンピート麦芽 | トースト、ビスケット |
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ピート(アイラ産) | トースト、ビスケット、フェノール、煙、海洋植物、潮 |
ピート(オークニー産) | トースト、ビスケット、フェノール、煙、フローラル |
ピート(内陸産) | トースト、ビスケット、フェノール、煙、樹木 |
発酵由来の香り|フルーティ、フローラル、穀物、植物など
発酵工程では実に様々な香りが付与されます。フルーティな香り(柑橘、りんご、梨、パイナップル、バナナなど)、フローラルな香り(バラ、ラベンダー、スミレなど)、穀物のような香り(麦芽、ビスケットなど)、植物の香り(稲穂など)が生じます。これらの香りは使用するウイスキー酵母、野生酵母によって異なります。
発酵時における香味のバランスは使用する発酵株の量、割合、発酵時間、温度のバランスにより決定付けられます。過去(30年程前)にはこの工程の重要度は高くなかったようですが、近年見直しがされ始めています。
発酵由来の香り
発酵時 | フルーティ、フローラル、穀物、植物 |
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蒸留由来の香り|エステル香、穀物、柑橘、革、タバコ、蝋など
・蒸留由来の香り・
蒸留液(ニューポット)
蒸留は香味要素を洗練させる重要な工程です。蒸留した際に流れ出る蒸留液は、そのタイミングから前留、中留、後留と3つの段階に分けられます。タイミングにより得られる香味要素が異なる事がポイントです。
前留(フォアショッツ、ヘッズ)には二日酔いの原因となるアセトアルデヒド、洗浄液に使われるアセトン、失明に繋がるメタノールが含まれています。中留(ミドル、ハーツ)からはまずエステル香(フルーティな香り:青りんご、梨、パイナップル、バナナ、イチゴ、メロン、桃やドライフルーツ)が、次に草や穀物、のちに柑橘類が現れます。後留(フェインツ、テール)には革、タバコから始まり、最後には蝋、生臭さ。フェノールやスモーキーな香りもテールに含まれている為ミドルカットのタイミングは非常に重要です。
前留 | アセトアルデヒド、アセトン、メタノール |
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中留 | エステル香(青りんご、梨、パイナップル、バナナ、イチゴ、メロン、桃やドライフルーツ)、草、穀物、柑橘 |
後留 | 革、タバコ、蝋、生臭さ ※フェノールや燻香も多く含まれます |
・蒸留由来の香り・
蒸留器の大きさ
また、蒸留器の大きさも香味に影響します。高さのある蒸留器では軽い香味に。低い蒸留器では重くてリッチな香味に仕上がります。蒸留時間や熱の調整によって香味は異なりますが、要はスチルの素材である銅との接触時間が長いほど軽い原酒が生まれます。
背の高い蒸留器 | 軽い香味 |
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背の低い蒸留器 | 重たくリッチな香味に |
・蒸留由来の香り・
蒸留器の加熱方法
蒸留器の加熱方法により酒質が変化すると言われています。この項目は現在も研究されていて、さらなる進展が望める分野です。
間接加熱でスチル内にスチームを入れる場合、もろみは蒸気により希釈され、蒸留後のモロミは蒸気の水分によって薄まり量が増えます。
間接加熱(ガス) | 軽い酒質に |
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直接加熱(ガス) | 厚みのある酒質に |
直接加熱(石炭) | 良い意味でのムラが生じる |
・蒸留由来の香り・
蒸留時間、加熱速度による変化
先述の加熱方法よりも蒸留時間、加熱速度の方が酒質に影響を与えるとする声も聞こえます。グレンフィディック蒸溜所のスチュアート・ワッツ氏は「加熱が穏やかな程酒質は軽くなり、加熱が強いほどコクのある酒質になる」と語りいます。
緩やかな加熱 | 軽い酒質に |
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急激な加熱 | 厚みのある酒質に |
熟成由来の香り
熟成由来の香り
熟成年数による違い
ウイスキーを熟成する際に樽は必要不可欠です。その樽が酒質に与える影響は実に75%にも登ると言われています。
熟成初期の段階ではバニラの香りが生じます。10〜15年立つとフルーティでフローラルな香りが目立ち始め、25年前後でココナッツを思わせる香りが前に出てきます。また、熟成初期の段階で切り上げたウイスキーは麦芽と梨の香りが目立つ事が多いです。
初期 | バニラ |
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10〜15年 | フルーティ、フローラル |
25年 | ココナッツ |
熟成由来の香り
気温による違い
暖かい環境では木樽が膨張する事でウイスキーと樽の接触面積が増え蒸発率(天使のわけまえ)が増えます。原酒の酸化も促進し、フルーティな香りがより生成されます。
寒い地域の場合は気孔が収縮する事で熟成の速度が遅くなり、蒸発率が低下します。長期間の熟成はアルコールの刺激を抑え、樽の成分をより強く原酒に与える事ができます。
暖かい環境 | フルーティな香り 樽の影響を濃厚に |
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寒い環境 | 滑らかな口当たり |
木材由来の香り
木材由来の香り
樽の材質による違い
オーク樽からはトースト香が付与されます。更にアメリカンオークからはバニラやキャラメルの香味が、ヨーロピアンオークからは渋みとスパイスの香味が付与されます。
木材由来の香り
古樽と新樽の違い
古樽は新樽に比べて木材の風味やタンニンの渋みが軽減され、元々詰められていた原酒の色や風味が付与されます。
木材由来の香り
バーボン樽とシェリー樽、ミズナラ樽の違い
バーボン樽からバニラの香味が、シェリー樽からは干しぶどう、プラム、ナッツ、ワイン様のタンニンが、そしてミズナラ樽からは爽やかでオリエンタルな香味が生まれると言われています。
チャーやトーストによる香り
チャーやトーストによる香り
チャーした樽とプレーンな樽の違い
木材に含まれるデンプンを糖に変換するために内面を火で焼く事をチャーと言います。(弱火で緩やかに加熱する場合はトーストと呼ばれます)
この工程によりアーモンド、トースト、カラメル、蜂蜜といった香気成分が生み出されます。リグニンはアルデヒド、バニラ、煙、クローブの香味に変化します。チャーの強さは原酒に与える影響力と比例します。
プレーンな樽 | 木材の特徴をダイレクトに与える |
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トーストした樽 | アーモンド、トースト、カラメル、蜂蜜、アルデヒド、バニラ、煙、クローブ |
チャーした樽 | アーモンド、トースト、カラメル、蜂蜜、アルデヒド、バニラ、煙、クローブ ※トーストより強い影響力がある |
樽の大きさ
小さい樽は木材との接触面積が大きい為、熟成が早くダイナミックな味わいに。大きい樽では上品に熟成すると言われています。これは熟成期間とアルコールと水の会合により生まれるまろやかさが比例する為です。
小さい樽 | ダイナミックな酒質 |
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大きい樽 | 上品な酒質 |
樽の利用回数
何度も樽を使用するほどウイスキーが樽から受ける影響は小さくなります。
再利用の際は改めてチャーやトースティングを行う事が一般的です。この工程によりバニラやキャラメル、スパイスの風味が蘇る事になります。こうした手入れを施した樽は100年ほど保つと言われています。
再利用の限界は3〜4回。それ以降は樽の風味がほぼ無くなると言われています。
樽の製造コストは全体の約10〜20%を占めています。樽の再利用はコスト削減の意味もありますが、適切な酒質を求めた結果再利用に行き着く場合も多くあります。また、ウイスキー業界がスパイシーな風味を求めているからと話す方もいらっしゃいます。
再利用した場合は原酒の酒質をより強く感じる事ができます。例えばスモーキーなウイスキーをサードフィルの樽で熟成させた場合、他のフィルよりも強いスモーク香を感じられるようになります。また、木香や硫黄も減少します。