ウイスキーの香味の一つ、ピート香。
この香りは日本語で「燻製香」「ヨード香」とも呼ばれ、アイラウイスキーで感じる事の多い香味として有名です。
ウイスキーライフを送る中で慣れ親しんだ要素ではありますが…ふと思いました。この香りはどこからやってくるのでしょう。
蒸留器?
樽の香り?
実は、この香りの元は「ピート」と呼ばれる燃料にあるようです。
一体どう言う事?
何で燃料がお酒に影響するの?
さっぱり分かりません。
…という訳で調べてみました!
我らが愛するスモーキーフレーバー
この香りはどこから来るの?
その秘密を一緒に解き明かしましょう!
スモーキーな香りがする理由
私たちを魅了してやまないスモーキーフレーバー。このフレーバーの原因は「燃料」にあると言う事ですが…
燃料が香りにどう関わってるの?
そう思ってしまいますよね。
何やら秘密は「精麦」と呼ばれる作業工程にあるようです。
精麦とは一体何なのか。
ザッと説明させて頂きます。
精麦の流れ
精麦とは、原料である大麦を発芽させる為のウイスキー造りに欠かせない行程です。
原料の大麦に「水をやり」「発芽させ」「乾燥させて」「伸びた根を切る」というステップを減るのですが、その「大麦を乾燥させるステップ」でピート香は付与されます。
精麦の大まかな流れは以下をご覧ください。
(1)
大麦の収穫
大麦を収穫します
自然乾燥後2〜3ヶ月保管します
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(2)
大麦を水に浸す
大麦を水に浸したり空気に晒したりを繰り返します
この工程をドライ&ウェットと言います
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(3)
発芽させる
しばらくすると大麦の外に根っこが出てきます
これが発芽の合図です
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(4)
大麦を高温で乾燥させる
発芽した大麦を乾燥させます
燻製香はこのタイミングで付与されます
▼
(5)
大麦麦芽の完成
根っこを切って完成です
お疲れ様でした
精麦について、より詳しく知りたい方は
こちらの記事をご覧下さい
ピーテッド麦芽の作り方
精麦の流れは理解頂けましたでしょうか。
スモーキーフレーバーは、精麦工程で言うところの
大麦を高温で乾燥させる
その時に付与されると言う事が分かりました。
しかしどのように付与させるのでしょう。
燃料で焼くの?炙るの?きっとそんな訳無いですよね…?
スモーキーフレーバーの与え方
この「乾燥」と言う工程では、大麦を乾燥させる為に室温を70〜75℃まで上昇させます。その室温を上げる為にピートを使用するとスモーキーフレーバーが付与されます。
このピートという燃料は香りが強い燃料です。
そんな強い香りを放つ燃料を密室で炊けば、大麦に香りが染み込むのは必至の事。
こうしてピート香は付与されます。
※ピートを使用して香り付けされた原料の事をピーテッド麦芽と言います
※かつてはほとんどのウイスキーがピーテッド麦芽を原料としていましたが、近年では逆に「ノンピート麦芽」と呼ばれる、スモーキーフレーバーが目立たないウイスキーが主流となっています
ピートとは
スモーキーフレーバーは精麦時にピートを使用すると付与される事が分かりました。しかし、このピートとは何者でしょうか。
グーグル先生はこんな風に教えてくださいました。
ピートとは
苔をはじめとする蘚苔類(せんたいるい)や草、灌木、樹木が部分的に分解されることにより、浸水された状態で形成される淡褐色から黒色の有機堆積物である
とのことです。何を言っているのかさっぱり分かりません。
要はコケや植物を沢山含んだ泥の塊だと思ってます。
ざっくり言うと腐葉土※のようなものかと。
※厳密には「腐植土」です
何で泥が燃えるんだろうと不思議に思っていましたが、こんな理由があったんですね。
ウイスキーにピートが使用される理由
しかし何故こんな変化球的な燃料を使用するのでしょう。薪ではダメだったんでしょうか。
実は…スコットランドの環境はあまりに過酷だそうです。
痩せた土地
事ある毎に暴雨に見舞われる
そんな環境で生育するのはコケ類、ワタスゲ、葦、ヘザー※くらいだと言われています。大きな樹木は育ちにくいのです。
燃料の確保が難しい。
何でも良いからとにかく燃えるピートを使おう。
そう思うのは必然だったのでしょう。
※ヘザーとは|ツツジ科の灌木。荒地や岩肌に米粒程度の桃紫色の小さな花を咲かせます
ピートの作り方
荒涼の大地に住むスコットランドの人々を救った燃料、ピート。このピートは長い年月をかけて作られます。
その年月はなんと数千年。
ピートは1年で数ミリしか成長しません。非常に時間がかかります。
1000年でも15センチ程成長すると言われていますが…そうすると、西暦が始まってから30センチ程しか成長していない事になります。たった30センチです。
果てしない時間をかけて作られるピート。その流れは下をご覧下さい
ピートの作られ方
(1)
堆積
植物が長い年月をかけて積み重なります
※その際湿潤な環境である必要があります
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(2)
分解
空気が触れない中で分解され、土壌と混ざり合います
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数千年後…
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(3)
大地となる
立派なピート湿原が生まれます
ピートの採掘方法
果てしない時間をかけて作られるピート。ある意味ウイスキー以上に長期的視野を持って作られているピートですが、スコットランドでは割とカジュアルに使用されていました。
家庭用燃料だったり、勿論ウイスキーの燃料としても。
※現在ピートを主燃料として使用するのはウイスキーくらいだそうで
そんなピートはどうやって採取されているのでしょう。答えは意外とシンプルでした。下をご覧下さい。
ピートの採掘方法
(1)
ピートを掘る
特製の鍬でピートを掘ります。その長さは1m程。主に初夏に行われると言われています。
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(2)
ピートを乾燥させる
切り出したピートは水分が多い為、乾燥させる為に地表で数ヶ月放置します。
▼
(3)
完成
完成です。お疲れ様でした。
ピートとテロワール(地域による香りの違い)
広大な土地、スコットランド。その面積は8万㎢に迫る程。そんな広大な大地の至る所にピートは存在します。自ずと生成されるピートの成分も変わります。
そう。ピートもテロワール(地域性)に違いがあるのです。
ピートは地域ごとにどんな個性を持っているのか。そして、その原因は何なのか。共に見ていきましょう。
(1)
アイラ島のピート
海、潮風の影響を大きく受けたアイラ島のピート。スコットランド本土やアイルランドのピートと大きく異なる点は内容物です。
海藻類や貝殻などの海産物
これらがピートにふんだんに含まれています。潮の香りやヨード香はこのピートの成分によるものとする意見もある程です。
※クレオール(タールのアロマとして捉えられる)が多く含まれています
とはいえ、海水の飛沫の影響を感じにくいと言われるピートも存在します。それがアイラ島の南、ポートエレン精麦所で使用されるピートです。
この精麦所の持つピートボグ(ピートの採掘場)は少し内陸に位置していて、そのことが潮の香りやヨード香の有無に繋がっていると言われているとか。
・潮の香りはピートに由来している?・
近年減少傾向にあると言われている「ウイスキーの潮の香り」。もしその香りがピート由来のものだとしたら、これまで悩みに悩んでいた「潮の香り問題」が解決に近付くのでは…!?と一人興奮しています。潮の香りについて苦悩している様は下をご覧下さい。
(2)
ハイランドのピート
ハイランド等の内陸部で採取されるピートは灌木や草花といった植物系の成分が多いと言われています。
※樹木由来のリグニンという成分が多く、アイラのソレとは違い、シンプルにスモーキーだと言われています
また、ハイランドのアードモア蒸溜所はセントファーガスのピートを使用しているらしく。
このピートは苔類の成分がほぼ無いと言われています。
(3)
オークニー諸島のピート
ハイランドパーク蒸留所やスキャパ蒸留所などが属するオークニー諸島。この島で取れるピートの特徴はヘザーの影響が強いと言われています。
※風味は木香系やアルデヒド系。わらや干し草の香りに近いと言われています
もしかしてオークニー諸島にはヘザーが咲き誇っているんでしょうか。一度見て見たいですね。
最後に
塩気の強いピートフローラルな香りを沢山含んだピートどれも愛すべき個性です。そんな個性は数千年の歴史をかけて作られました。
数千年。
歴史の重みを感じます。
…ふと、こんな事を考えてしまいました。
スモーキーフレーバーを香ると言う事は、数千年の歴史を香っているのと同意ではないか。この煙には、その土地で生きた人の血や肉、魂までもが染み込んでいるのではないか
と。
そう考えると、何故こんなにもスモーキーフレーバーから力強さを感じるのかも分かります。私たちはピートの香りを通じてスコットランド人の魂を感じているのかもしれないのですから。
その魂は一度纏うと中々離れず。原料を粉砕しても、水と混ぜても、個体・液体ですらなくなったとしても残り続けます。
ウイスキーがスピリッツ(魂)と呼ばれるのも納得です。
妄想も大変捗りました。楽しませて頂いてます。
今回もご覧いただきありがとうございます!
それではまた!