ソーテルヌワイン…それは貴腐ワインとも呼ばれる蜂蜜のように甘いワイン。限られた地域でしか作ることのできない由緒正しきワインです。
そして、そんな甘〜いソーテルヌワインが染み込んだ樽はソーテルヌカスクと呼ばれ、しばしばウイスキーの熟成に使われます。
スイートな香りが染み込んだ芳醇なソーテルヌカスク。
そんな樽と香味豊かなウイスキーの融合…
嗚呼、なんてロマンチックなんでしょう!
凝縮された濃厚な甘味を持つソーテルヌワイン
…
…しかし、そのイメージは本物でしょうか。
ソーテルヌカスクを使用すれば本当に甘く芳醇な香りになるの??(そもそもソーテルヌワインってどんな味!?)
さっそく検証してみましょう!
下準備|ソーテルヌワインの味を知る
ソーテルヌ要素を感じ取るにはソーテルヌワイン自体を知らなければなりません。しかし私はソーテルヌワインを飲んだ事がありません。
そこでディケムというソーテルヌワインを飲ませて頂きました。
\フォアグラのパテも頂きました/
このワイン…とても素晴らしい香味をしています。
口当たりは大変軽やかです。しかし甘味と香りの轍はしっかりと残されています。
蜂蜜のような甘さに混ざり合う豊かな香り。バランスがとても良いですね。
更にフォアグラとのマリアージュが大変素晴らしい!
香りが今まで感じた事ないほどに膨らみ、口の中が蜂蜜や白ぶどう、花々で満たされます。
単なる足し算ではない飲み合わせ。
互いが互いの良さを引き立てる。
これがマリアージュと言うのでしょう。私は今日、本当の意味でマリアージュを理解しました…
※この後、リューセックとシシェルのソーテルヌも頂きました。とても美味しかったです
ソーテルヌカスクのウイスキー|グレンモーレンジィ・アラン
ソーテルヌを知った私に怖いものはありません。早速ボトルを用意しました。
「ソーテルヌ三銃士を連れてきたよ!」
グレンモーレンジィ蒸溜所
グレンモーレンジィ・ネクタードール
ソーテルヌカスクフィニッシュ
GLENMORANGIE NECTAR D’OR
これは先日の記事で扱ったものと同じボトルです。グレンモーレンジィ原酒をバーボン樽で10年熟成後、ソーテルヌカスクで2年追熟したシングルモルトウイスキーです。
アラン(ロックランザ)蒸溜所
アラン・ソーテルヌカスクフィニッシュ
Arran Sauternes Cask Finish
アランの原酒をトラディショナルオーク樽で熟成後、フランスの甘口貴腐ワインの空き樽で追加の熟成を行ったモルトウイスキーだそうで。ノンチルノンカラー、度数は50%です。
フィルバート蒸溜所
フィルバート・レアカスク
ソーテルヌカスクフィニッシュ
PHILBERT RARE CASK -Sauternes Cask Finish-
オマケとしてソーテルヌカスクで後熟されたコニャックも用意しました。フィルバートはグランシャンパーニュとプティットシャンパーニュに畑を持つプロプリエテール。由緒正しき作り手です。
このコニャックはプティットシャンパーニュの畑で作られた白葡萄を原料として作られています。その原酒をフレンチオークの新樽で熟成後、ソーテルヌ樽で後熟した世にも珍しいコニャックです。
ソーテルヌカスクのウイスキー|レビュー
それでは実際にソーテルヌカスクのウイスキー飲んでみましょう。まずはグレンモーレンジィ・ネクタードールから頂きます。
飲み比べにも気合が入ります
グレンモーレンジィ蒸溜所
グレンモーレンジィ・ネクタードール
ソーテルヌカスクフィニッシュ
GLENMORANGIE NECTAR D’OR
香り
モーレンジィの甘みに貴腐(ぶどう由来)の甘い香り
味わい
渋みはドライな刺激がマスキング
余韻は蜂蜜、バニラ、白葡萄、白胡椒
アラン(ロックランザ)蒸溜所
アラン・ソーテルヌカスクフィニッシュ
Arran Sauternes Cask Finish
香り
貴腐は感じるも硫黄香。その奥に貴腐とは違う甘い香り
味わい
貴腐そのものの香りではなく、何かの甘味と貴腐が混ざり合っているような…
荒々しさは否めない
余韻に貴腐がいる?
フィルバート蒸溜所
フィルバート・レアカスク
ソーテルヌカスクフィニッシュ
PHILBERT RARE CASK -Sauternes Cask Finish-
香り
ガス臭
若いアグリコールラムに感じるようなガス臭が支配
これがオレンジの香りでしょうか
味わい
貴腐を感じることはできず
ソーテルヌカスクのウイスキー|評価
ややこしい事になってきましたね…
まず今回の命題を解決しましょう。
「ソーテルヌカスクを使用すれば本当に甘く芳醇な香りになるの??」
その答えは
「むしろスッキリするのでは」
と思いました。
「ソーテルヌ樽で熟成させたウイスキー」と銘打たれると、私たちはどうしても「あの濃厚な甘み」を期待してしまいます。
しかしソーテルヌワインの甘みは、濃厚とはいえ「洗練」されています。繊細かつ膨よかな…絹糸のような舌触りと繊細な甘味が口の中にじんわりふんわりと広がってゆく、あの甘み。
あの甘みは確かな重厚感を持っていることは疑いようの無い事実ですが…
私の主観ですが、あの甘みはウイスキーに影響を与えるには綺麗すぎるのではないでしょうか。
ソーテルヌワインは例えるなら英才教育を受けた上品なお嬢様。畑仕事で鍛え上げられたウイスキー原酒の持つ香味に屈服させられてしまうのも仕方ありません。
加えてソーテルヌワインを樽で熟成させる期間は大体16〜24ヶ月ほど。その間にどれだけの香りが樽に移るというのでしょうか。
つまり、ソーテルヌカスクを使用する事で加えられる要素は「甘み」と言うより「上品さ・洗練感」ではないでしょうか。
その役割は、砂糖菓子のように甘くなった原酒を上品に整えるような…若々しく奔放な少女を優しく嗜めるお嬢様のような…
実際、グレンモーレンジィ・ネクタードールはオリジナルより力強いバニラ、カラメル感は控えめです。反面、その甘みは洗練されていてネクタードールならではの味作りとなっています。
バーボン樽らしい力強い甘みを持ったオリジナル
ソーテルヌ樽らしい繊細で上品な甘みを持ったネクター・ドール
そんな分け方で良いのではないでしょうか。
ソーテルヌカスクのウイスキー|まとめ
さて、それでは3本の中で最もソーテルヌらしい香りを感じたボトルを発表したいと思います。
グレンモーレンジィ、アラン、フィルバートの中で最もソーテルヌらしい甘みを感じたボトル…それはグレンモーレンジィ・ネクタードールです!
豊かなフレーバーを持つネクタードール
ネクタードールはソーテルヌ樽を活かした味作りを目指して作られた事が分かるボトルでした。こう言うのにマニアは弱いんです。
その味はオリジナルから本当に変わりましたね。本来はバーボン樽らしい外交的な性格を持っていたのに…大切な方とデートする為にお澄まし顔をしているような…そんなイメージが湧きました。
次に来るのはアラン、最後に来るのはフィルバートでしょう。
デザインはとても魅力的なフィルバート
この二本はなんと言うか…
若々しい…いや、荒々しい。かなりマニア向けの商品かと。
「あの頃のアラン飲んだらこんな感じだったよ」みたいな思い出話で盛り上がる為に使いたいボトルです。
アラン好きには堪らないでしょう。今後同じような樽使いがされるとも限りませんしね。
まだまだ綺麗な出来たばかりのアラン蒸溜所。これからに期待です
それでは当記事のまとめに入ります。
ソーテルヌカスクを使うと甘くなるか。
私の答えは
「甘くなるというより、上品になる」
でした!
味だけで比べるとグレンモーレンジィネクタードールの一人勝ちでしたが、ウイスキーの良し悪しは味だけでは測れません。
いかにブランドに感情移入できるかといった部分も大切になってきます。
そういった意味ではアランやフィルバートのポテンシャルは未知数!今後の成長が楽しみです。
それではまた。
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