等級別飲み比べ記事も最終回。二級、一級と飲み進めてきましたが、遂に今回は特級ウイスキーを取り扱います。
ウイスキーで特級品といえばサントリーの「ローヤル」やニッカの「スーパー」、キリンシーグラムの「ロバートブラウン」などが有名です。
当時は高級品だったにも関わらず年間数百〜数千万本売り上げる事もありました。
しかし、これらのボトルはどんな違いがあるんでしょう。
・
・
・
という事で、用意しました。
\ドン/
どのボトルも時代のトップを担った特級品。二級品や一級品との違いは法が保証しています。あとは私がそれぞれの違いに気付くだけ。頑張ります。
特級ウイスキー飲み比べ|ラインナップ
用意したのはウイスキーはこちら。サントリー「ローヤル」、ニッカ「スーパー」、キリンシーグラム「ロバートブラウン 陶器ボトル(2種)」。
そして…
本坊酒造「マルス オールドウイスキー」と、モロゾフ酒造「バッキンガム」も用意しました。
まずはサントリー「ローヤル」の概要から。
ローヤルは1960年にリリースされた特級品です。今もリリースのある人気商品となっています。
ちなみに最も売れたのはサントリー「オールド」。1974年においてウイスキーの特級品の総販売量は約8800万本でしたが、その約6000万本はオールドが占めていました。76年には年間1億本を突破した事も。(テイスティングはまた今度…)
※隣の12年は無視して下さい
こちらはニッカのスーパーです。当時の価格は3000円。前述のオールドが1900円であった事から考えてもかなりの高価格です。
キリンシーグラムのロバートブラウン。1971年に誕生し、1976年には年間売上800万本を超えた人気ブランドです。
このボトルはポートピア’81開催にあやかってリリースされた陶器ボトル。首には下図のようなネックレス?が掛かっていました。
このボトルの制作コンセプトが載っています。現代に比べるとやや乱暴な説明に思えますが、「まろやかさ」や「ホワイトオーク」と言った言葉は現代に通じるものを感じます。
シュリンク(?)はどちらも未開封でしたが、紺色ボトルのコルクはスカスカに痩せていました。
緑のボトルはヤっちゃいました。
本坊酒造のオールドウイスキー。1970年に発売されました。山梨工場はあの竹鶴ノートを受け継いだ岩井喜一郎が設計指導に当たっています。
本坊酒造は後にマルスウイスキー山岳シリーズで有名となる企業です。
モロゾフ酒造(のちのモンデ酒造)のバッキンガム。1955年(1960年?)に販売されました。
ウイスキー原酒の量は全体の50%。残りは水とニュートラルスピリッツだったとか。
※ピュアモルトの表記は「グレーン不使用」の意味で使用されているのではないか…と言われています
モロゾフ酒造がウイスキー原酒を生産し始めたのは1962年から。そしてラベルには「PRODUCED & BOTTLED」と書かれている事から、このウイスキーの原酒は輸入物ではないかと言われています。(他に石和蒸溜所、奈良産シルバーウイスキー原酒が候補に上げられています)
特級ウイスキー飲み比べ|テイスティング
それでは頂きます。当時の造り手に感謝を込めて…
▼
▼
▼▼
▼
▼
サントリー・ウイスキー特級
ローヤル
ROYAL
〜 香り/Nosing 〜
麦焼酎と蜂蜜林檎
麦焼酎に馴染む蜂蜜林檎
〜 一滴加水/Add Water 〜
梨、桃
〜 味わい/Tasting 〜
溶けたプラスチックに漬け込んだ木片と一滴の桃果汁
ヒノキ、プラ、桃、蜂蜜。
舌の疲れ
〜 同量加水/Twice up 〜
–
ニッカ・ウイスキー特級
スーパー
SUPER
〜 香り/Nosing 〜
温泉街で食べる林檎菓子
硫黄、蜂蜜、林檎、ヒノキ
※最初に硫黄を感じるものの甘やかな香りが覆い隠す
〜 一滴加水/Add Water 〜
プラ、チョコレート、ヒノキ
〜 味わい/Tasting 〜
痩せた蜂蜜
エタノール、蜂蜜、プラ
〜 同量加水/Twice up 〜
–
キリン・ウイスキー特級
ロバートブラウン(緑)
ROBERT BROWN
〜 香り/Nosing 〜
オレンジ風味のミルクチョコ
蜂蜜が静かに香る
湧き出るミルクチョコレート。オレンジ
煙?硫黄?微かな厚み
〜 一滴加水/Add Water 〜
チョコレート。桃。アルコールが息を吹き返したような。
〜 味わい/Tasting 〜
危険な水溶き片栗粉
とろみ。無機質なエタノール、プラ
期待したチョコレート感は薄く、煙
馴染みのない、なんとも言えない香りが膨らむ
やや舌の収縮
〜 同量加水/Twice up 〜
香:チョコレート、いぶりがっこ、たくあん、
味:プラ。とろみ、
キリン・ウイスキー特級
ロバートブラウン(青)
ROBERT BROWN
〜 香り/Nosing 〜
儚いオレンジの夢
緑より静か。コルクの状況か
オレンジ。何か複雑な…林檎味の歯磨き粉のような。
※液量もこちらの方が少なかった(未開栓)
〜 一滴加水/Add Water 〜
まだ静か
〜 味わい/Tasting 〜
危険な水溶き片栗粉
とろみ。微かなエタノールの刺激
やや舌の収縮。オレンジ、桃
〜 同量加水/Twice up 〜
・香・
–
・味・
蜂蜜、ミルキー、煙
マルス・ウイスキー特級
オールドウイスキー
Old Whisky
〜 香り/Nosing 〜
スパイスを振りかけた蜂蜜入りのホットチョコレート
硫黄、蜂蜜、チョコレート、レーズン
〜 一滴加水/Add Water 〜
ローヤルより強い梨
〜 味わい/Tasting 〜
木工室で食べる桃の果肉入りチョコレート
チョコレート、蜂蜜。桃
〜 同量加水/Twice up 〜
・香・
オレンジ強し
・味・
ヒノキ。じんわり広がるオレンジと桃のジュース
モロゾフ酒造・ウイスキー特級
バッキンガム
BUCKINGHAM
〜 香り/Nosing 〜
消毒液を染み込ませた脱脂綿
香りが非常に薄い
〜 一滴加水/Add Water 〜
静か。オレンジが比較的目立つ。微かなプラも。
〜 味わい/Tasting 〜
溶けたプラスチックで溶いた木の削り粉
プラ、コルク。体が受け付けない
〜 同量加水/Twice up 〜
・香・
プラ、ヒノキ
・味・
ミルキーさが垣間見えるものの…
特級ウイスキー飲み比べ|評価・レビュー
中々タフな飲み比べとなりました。健康状態の良いウイスキーが飲みたい…
ローヤルは桃と蜂蜜。スーパーは林檎と蜂蜜。どちらのボトルもとても「らしい」味作りでした。
ただ状態は悪かったです。プラ感や金属感に加え還元香。過去の二級、一級の中でも最も強いオフフレーバーを感じました。
その為、特級ならではのモルト感やコシの強さを探り当てる事は叶いませんでした。有名な銘柄だけに残念です。
逆にサントリーは凄いですね。これだけ香りが消えてオフフレーバーが発生しているのに強い甘みは残っている。凄いなぁ。
その分ロックやソーダで割ると良いですね。二級のREDでも感じたような、割材に負けない甘みを感じます。
当時は割材ありきの味作りをしていたという噂は本当だったのかもしれません。
そんな中でロバートブラウン(緑)のチョコレートのような香りはとても光って見えました。甘やかなミルクチョコ。とても良かったです。
味が生きてればもっと良かったなぁ。ほんと勿体無い…
次に語りたいのは本坊酒造のオールドウイスキー。とにかく状態が良かった!安心して飲める!感動モノです!!
オールドボトルからは多少なりオフフレーバーを感じるもの。しかしこのボトルは違います。なんだ!普通に飲めるじゃん!!
「普通に飲める」という最低限のラインを突破しただけでこの喜びよう…複雑な気持ちになりますが…
このオールドウイスキーの強い洋梨感からはオリジナリティを感じました。チョコも感じて深みアリ。飲みやすさも悪くありません。
普通に良い個性派ウイスキーでした。人にも勧めたいボトルです。
バッキンガムについては触れません。
特級ウイスキー飲み比べ|まとめ
等級別ウイスキーを飲み進める中で、私の中で「オールドボトルといえばこんな感じの味わい」という枠組みが出来上がりつつありました。その枠組みを超えてくれたのが今回のマルス・オールドウイスキー。このサプライズが堪りません。
その香りは深みがあり、味わいはオレンジと桃が混ざったジュースのよう。オフフレーバーも目立たず安心して飲めました。
ロバートブラウン(緑)も一番になりうるポテンシャルを感じましたが、溶かしたプラスチックのような風味はどうしても見逃せませんでした。
もはや健康状態バトルになっている気がしないでもありません。いつか味の生きている当時のロバートブラウンも飲めたらな…
余談ですが、今回用意した2本のロバートブラウンはスペック上、同じ味がするはず。しかし結果は明らかに違う物でした。
これは「人と話すときに話が食い違いそう」だと思いました。これはコミュニケーションツールとしての役割をウイスキーに感じている私にとって少し厄介な事象です。
ただでさえ「味覚」というクオリアど直球な物差しで測っているのに、これでは…
まあ、あるがままに、その現実を取り扱いたいと思います。会話する際の前置き(「あの時の、こんな状態の〇〇に限っては××でした」みたいな)が多くなりそうですが、仕方ありません。
そんな世界で、私たちにできるのは「美味しい、美味しくない」といった主観による説明ではなく「アレと比べてどうだった」という説明をする事。
できるだけ多くの方の感覚に寄り添えるよう、より良い提案ができるよう、今後も比較材料を仕入れます。
今後ともよろしくお願いします。
それでは今日はこの辺で。
最後までご覧頂きありがとうございます。
特級ウイスキー飲み比べ|特級とは
ウイスキー特級は1962年から1989年(昭和の終わり)まで使用されていた等級名称です。「特級」は他の等級に比べて高いウイスキー原酒の混和率とアルコール度数が保証され、高級品として扱われてきました。
詳細は【等級表記の変遷】クリックして下さい
高価格とは言えその味わいとブランド力から消費者からの需要は高く、売れました。薄利多売の一級、二級のウイスキーより利幅も高いので、企業はこぞって特級市場に踏み込んでいきました。ウイスキー市場の売上の40%以上は特級ウイスキーだったと言われています。