日本におけるウイスキーの歴史はまだ浅く。サントリーの前身である壽屋が国産第一号の本格ウイスキー「サントリーウイスキー」をリリースしたのが1929年、ピュアモルト「山崎」は1984年。
スコットランド基準で考えると比較的新しめなんて言われてしまいそうです。
昭和時代のウイスキーは原酒にブランデーやワインなどで味付けしたものが主流でした。その甘やかな酒質と安さが消費者に受け入れられていたと言われています。
その酒質は等級で表されており、ウイスキー原酒を何%使用しているか(※)で呼び名(と税率)が変わります。
ウイスキー原酒の割合が少ないものは2級、多くなると1級、最も多いもので特級と呼ばれるようになりました。(過去には雑酒3級なんて呼び名も)
※アルコール度数も関係しています
今回頂くボトルは二級品。原酒混和率が17%未満(※)のエントリーボトルです。当時の消費者が好んで飲んでいた等級だと聞いています。
※時代によって異ります
言わばこれは時代の味。当時の食生活に思いを馳せて頂きたいと思います。
二級ウイスキー飲み比べ|ラインナップ
今回用意した2級ウイスキーは3本。サントリーの「レッド」、ニッカの「ハイニッカ」、キリンシーグラムの「ボストンクラブ」です。
まずはハイニッカの概要から。
ハイニッカは1964年に誕生したブランドです。当時の販売価格は500円。この価格もあり多くの消費者に受け入れられました。
キャップに腐食は見られません
ブランド名の「ハイ」とはオーディオ用語の「Hi-Fi」に由来します。これは「原音や原画に忠実な再現」という意味を持っています。
スコッチウイスキーの伝統的な製法と特級表記にこだわっていた竹鶴氏の「二級であってもウイスキーの本格的な味わいをしっかりと表現したい」という想いが感じられます。
サントリーのREDも1964年に誕生したブランドです。販売価格もハイニッカと同じく500円。高評価を受けていたハイニッカを強く意識していたと言われています。
当時の2級ウイスキーの代表格はハイニッカとこのRED(とトリス)。
REDは1000円で発売されていたホワイト(一級)と比べ安価な価格が好評でした。トリスウヰスキー(三級→のちに二級)が評判だった事から見ても、戦後の消費者にとって低価格である事は重要だったのかもしれません。
背面には刻印が。二級品ながらもこだわりを感じます
前身となるサントリーウイスキー・赤札(赤ラベルの意)は1930年に誕生しており、意外と古株なREDですが、当時のREDはその独特のピート香が受け入れられず評判が良くありませんでした。
しかし改称後のマーケティング戦略は見事成功。同シリーズの白札(ホワイト)は有名スパイ小説「007は二度死ぬ」の中で褒められるなど、広く受け入れられました。
ボストンクラブは1986年に登場した比較的新しい銘柄です。販売価格は1200円。他の2本とは2倍以上高額な高級二級ウイスキーです。
「モルト&グレーン100%」のキャッチコピーに加えアルコール度数は39度と二級品としてはギリギリ(※)を攻めた製法を取っています。「安く売りたいけど品質はギリギリまで妥協したくない」というアツい思いをヒシヒシと感じます。
※当時、二級品と認められるにはアルコール度数を40%未満に抑える必要がありました
※このボトルは二級品ではありません。等級表示撤廃後に生まれた、アルコール分40%のボトルです
ボストンクラブはリリース当初は二級品なりのスペックでしたが、等級撤廃後は度数を40%に引き上げました。恐らくレシピも変化しているでしょう。
今回用意したのボストンクラブは度数を引き上げた後のボトルです。
…そう。今回の飲み比べは設定が破綻しています。ご容赦頂けると幸いです。
二級ウイスキー飲み比べ|テイスティング
左からハイニッカ、ボストンクラブ、REDです。
粘性はハイニッカが特別高く、次にレッド。ボストンクラブはサラサラとしています。
それでは、ジャパニーズ・ウイスキーの歴史に感謝を込めて…
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サントリー・ウイスキー二級
レッド
SUNTORY_RED
〜 香り/Nosing 〜
こってり桃林檎
3本の中で最もふくよかな香り
甘い桃、林檎。最もフルーティ
〜 一滴加水/Add Water 〜
桃、林檎、甘やかなさくらんぼ
〜 味わい/Tasting 〜
昭和の愛されジャパニーズ
強い甘味、強い焼酎感
しっかりしたボディ
軽めだがはっきりした桃、林檎
〜 同量加水/Twice up 〜
香りは爽やかに変化
焼酎感が和らぎ、甘やかな林檎を食べているよう
ニッカ・ウイスキー二級
ハイニッカ
NIKKA_Hi-Nikka
〜 香り/Nosing 〜
脱脂綿
香りは薄い
アルコール感。微かに蜂蜜、桃。
〜 一滴加水/Add Water 〜
僅かに穀物が広がる
〜 味わい/Tasting 〜
気性の荒い、痩せた蜂
口内に広がる溶けたプラスチック
軽い焼酎感、蜂蜜、桃
口当たりはスムース
〜 同量加水/Twice up 〜
香味共に溶けたプラスチック感が目立つ
キリンシーグラム・ウイスキー二級
ボストンクラブ
KIRINSEAGRAM_BOSTON CLUB
〜 香り/Nosing 〜
コーンフレークと蜂蜜
香りは薄いがハイニッカより膨よか
やや穀物の奥行きを持った蜂蜜
〜 一滴加水/Add Water 〜
僅かに蜂蜜と林檎が立ち始める
ミーティな硫黄も僅かに
※時間を置くと香りが開く
〜 味わい/Tasting 〜
ドライな焼酎カクテル
焼酎感
甘味はハイニッカより少ない
ドライな方向でバランスが取れている
〜 同量加水/Twice up 〜
香りはやや蜂蜜。
味はマイルドタッチの柔らかい蜂蜜、さくらんぼ。
二級ウイスキー飲み比べ|評価・レビュー
ごちそうさまです。「意外と悪く無いなぁ」というのが正直な感想。2級という事で過度な期待をしなかったのが良かったのかもしれません。
ボストンクラブの件はごめんなさい。なんでこれ気付かなかったんでしょう。バカかな。
訳アリのテイスティングとなってしまいましたが最後まで走り切ろうと思います。
最もおいしく感じたのはボストンクラブです。バランスの良さを感じました。
独特の香味を持った2級ウイスキーの中でも安心できる味わい。ロックスタイルでサッパリと飲みたいかも。
焼酎感は否めませんが、甘みの質が良いですね。辛口好きのあなたに是非。
レッドも良かったんですがやや厚化粧気味の味わいが気になりました。強い焼酎感を甘やかな香料で味付しているような…そんな感覚です。
しかしこれが「当時のウイスキー」なんでしょう。ノスタルジーな感覚に浸れる一本です。
水割りやハイボール、ロックで飲みたい。加水に負けない甘やかさをこのウイスキーは持っています。強い焼酎感さえ無ければ1番になれるポテンシャルも感じました。
今回のハイニッカは残念な結果に。状態があまり良くなかったのでしょう。香味は痩せていて、プラスチック感が目立ちました。本来のポテンシャルを味わえる日を楽しみにしています。
二級ウイスキー飲み比べ|まとめ
どのボトルもそれぞれの個性を感じました。フルーティなレッド。辛口のボストンクラブ。役割がハッキリしています。
それだけに1番を決めるのは最後まで悩みました。最終的には好みで決めてしまいましたが、飲みたいシーンで考えるのも良いかもしれません。
甘いウイスキーを飲みたい時はサントリーのレッドが良いでしょう。楽しい気分をより盛り上げてくれるはずです。
ドライなウイスキーを飲みたい時はキリンシーグラムのボストンクラブ。飲み疲れせず長く付き合えます。
これらウイスキーは原酒混和率の低さや添加物の多さが槍玉に挙げられがちですが、時代を表すお酒である事は間違いありません。
そしてこの味わいが日本の恥部だったとも思いません。
当時の消費者にとってウイスキーは存在自体が縁遠いものでした。
そんなウイスキーが、今や私たちの生活の一部にまでなっているのは、これら手に取りやすい二級品のウイスキーが、まず消費者に受け入れられてこそ。この味作りはゴールに行き着く為の必要なプロセスだったと言えるでしょう。
余談ですが、サントリーのオールドボトルには現代のフルーティさに通じる要素があるのでは…と感じています。特に現代のシングルモルト山崎にも感じるこってり桃チェリーが。
今日のサントリーの味作りの土台はこの頃から固められ始めていたのでは無いでしょうか。
サントリー製品のオールドボトルを飲み続け、この桃チェリー感を捉え続ける日々を送っているとコンビニで売られている角ハイボールからもこってり桃チェリーを感じるようになります。
そうなると気持ちが仕事モードになってしまうので心が休まらない…といった弊害も生まれてしまいました。
と言うことで最近のお気に入りはアイリッシュのハイボール。この癖の無さが素晴らしい。
オールドジャパニーズからグレーンに行き着くとは思いもよりませんでしたが、それはそれで面白くもあります。ウイスキーは楽しいなぁ。
と言う事で今日はこの辺りで失礼します。
それではまた。