01_お酒の歴史

シングルモルトウイスキーの作り方:精麦/モルティング編【定義や歴史、文化を解説】

はじめに
シングルモルトとは
What is Single Malt ?

シングルモルト・画像一つの蒸留所で作られたウイスキーの事。

原料
水・大麦麦芽

シングルとは
「単一の蒸溜所」の意

モルトとは
「大麦麦芽」の意

特徴
個性豊か

01|精麦/モルティングの目的

大麦を発芽させデンプンを糖に変える酵素を大麦内に作らせる事を目的としています。この際デンプンが多く、たんぱく質や窒素の少ない大麦を選ぶのが良いとされています。(デンプンの多い春播きの大麦が主に使用されます)

また、事前に麦の大きさを統一することで吸水率の均一化を測ります。味への影響は麦の品種より精麦技術によると言われています。

01
大麦の発芽による効果

1)糖化酵素の生成
2)大麦中のデンプンとたんぱく質の水溶性向上
3)加熱乾燥時の香り付け(ピートなど)

02
発芽の条件

発芽には「水」「酵素」「適度な温度(16〜20℃)」が必要です。発芽すると酵素が活性化しグリーンモルトとなります。
※指先で潰れる程度の柔らかさに育った大麦のこと。

03
大麦の品種

1トンの麦芽あたりのアルコール抽出量をLPA(リッター・ピュア・アルコール)として表します。

〜19世紀
ベア種:260LPA

〜1900年
シュバリエ種:300LPA

〜1960年
ゴールデンプロミス種:390LPA

2000年
オプティック種:420LPA
コンチェルト種:420LPA

04

水は主に軟水を使用します。鉄やマンガンが着色などに悪影響を及ぼす為と言われています。しかしカルシウムやマグネシウムは酵母の増殖に必要な為、ミネラル成分の組成が大切と結論付けられています。

・国による水質の違い・

日本の水の特徴
水質:軟水

地質:火成岩
地下水の浸透速度が速い為軟水になりやすい。

ヨーロッパの水の特徴
水質:硬水

地質:石灰岩
地下水の浸透速度が遅い為硬水になりやすい。

・PH値について・


PH値:6.8〜8.1
中性〜弱アルカリ性

発酵槽のもろみ
PH値:4

瓶詰め時
PH:3〜4

・中硬水を使用する代表的な蒸溜所・

ザ・グレンリベット
ジョジーの泉

ハイランドパーク
クランティットの泉

02|精麦/モルティングの工程

01
大麦の収穫

収穫は主に8月頃行われます。(日本は5-6月頃行われます)
※春蒔き大麦の場合

この時の大麦の水分量は16〜20%程です。

・春蒔きと冬蒔きの違い・

春蒔き品種
3月~4月上旬に種蒔きをして8月~9月に収穫

冬蒔き大麦
8~9月に種蒔きをして翌年7月〜8月上旬に収穫
一般的にウイスキーには用いられません。

・早生と晩成・

大麦品種は、成熟の時期によって早生品種と晩生品種に分類されます。同じ品種であってもスコットランド北部ではスコットランド南端よりも通常で1〜2週間ほど収穫日が遅くなります。特に9月になると天候が変わりやすくなるため、収穫日も大きく左右されることがあります。

早生品種
8月に収穫

晩生品種
9月に収穫
品種:コンチェルト、オクテイヴィア、オデッセイ、ベルグレイヴィア

02
風乾

水分量を12〜15%程になるまで自然乾燥させます。

03
保管

発芽しない休眠期間(ドーマンシー)がある為、サイロで2〜3ヶ月保管します。この段階での大麦はサイレージと呼ばれる事もあります。

サイレージとは

作物をサイロなどで発酵させたものをサイレージと呼びます。主に家畜用飼料として用いられます。

04
選粒

吸水率の統一化の為、大麦の大きさを揃えます。

05
浸麦

大麦を浸麦槽(スティープ)に移します。大麦を仕込み水に二日ほど浸し、通気して十分な空気を与えます。

その際、数時間浸した後で水を抜き、7時間ないし8時間空気に晒すという作業を繰り返します。これをドライ&ウェットと言います。

ドライ&ウェットの詳細

汚れの除去→水分を45%含ませる(水温は12〜16℃)→30〜60時間→幼根が見え始めたら発芽床へ

06
発芽

発芽の促進の為、高湿度かつ15〜20℃ほどで5〜7日置きます。幼根が発生し、アミラーゼ(デンプン糖化酵素)を活性化させます。
※幼根の長さは麦粒の2/3〜5/8程です

発芽の方法

フロアモルティング
コンクリート床で行います。人力で撹拌する為非常に手間がかかります。

サラディンボックス式
ドラム式です。自動で撹拌されるので効率が良いと言われています。

07
乾燥

発芽させた大麦(グリーンモルト)を「キルン(乾燥棟)」に移し、水分含有量を4〜5%に落とします。温度は70〜75℃(80℃以下)を保ちます。この際、燻煙によるピート香などのフレーバーが付与されます。
※水分が残っている時のみ燻香が付与されます

キルン下部から燃料を燃やし、出た煙はパコダ屋根から逃がします。

08
徐根

水分の再吸収防止の為「モルト・スクリーナー(徐根機)」で徐根します。徐根した幼根は「モルトカルム」と呼ばれ、家畜の飼料となる事もあります。

精麦専門業者の誕生
MALTSTAR

精麦作業は大変手間がかかります。その為モルトスターと呼ばれる精麦専門業者が誕生しました。蒸留所はその精麦業者から完成済みのモルトを仕入れる事が現在の主流です。

・代表的な精麦業者・

ディアジオ、ベアーズ・モルト、ボート・モルトなど

 

03|糖化(仕込み)の工程へ

ここまでで精麦の工程は終了です。次は糖化(仕込みとも呼ばれます)の工程へ移ります。詳しくは糖化のページをご覧下さい。

イチロー
イチロー
精麦の主な目的は「大麦を糖化できる状態にする」事です
ジロー
ジロー
ブランデーやラムには無い手間ですが、この手間があるからウイスキーの特別な香味が産まれるわけですね