雑記

【考察】空が灰色だから|お前は私を大嫌いなお前が大嫌いな私が大嫌い【1巻 第2話】

【考察】空が灰色だから|お前は私を大嫌いなお前が大嫌いな私が大嫌い

この記事では「空が灰色だから(阿部共実)」の1巻 第2話「お前は私を大嫌いなお前が大嫌いな私が大嫌い」のストーリー、人間関係、隠された真実について考察しています。

お前は私が大嫌い|はじめに

この話は「ドライな森永さんに翻弄される、素直になれない明を描いた作品」だと思っていました。表紙の斑点や不穏なタイトルは「阿部先生の平常運転」に過ぎないと思ってました。

しかし次の一文を読んで考えが変わりました。

「ココロが見えない。ココロを見せない。悲しいのはどっち?」

この文章は本誌掲載時のアオリ文。絶対何か…ありそうですよね?最後までお付き合いいただけると幸いです。

お前は私が大嫌い|タイトルの意味

まずこのタイトルの意味について考察してみます。「お前は私を大嫌いなお前が大嫌いな私が大嫌い」。この言葉を分かりやすく書くと

【お前は「私の事を大嫌いなお前の事が大嫌い」な私の事が大嫌い】

となります。

略すと「お前は私の事が大嫌い」となり…

「お前」はどんな私の事が嫌いなの?

「お前の事が大嫌いな私」の事が嫌い
この時点では僻みにも思える言葉ですね。

その「お前」ってどんな人なの?というと

「私の事を大嫌い」なお前となります。
おや?話が変わってきました。どうやら僻んでいたのは「私」だったようです。

で、【「お前」は「僻んでいる私」のことが大嫌いだ】と言い切っている訳ですね。

 

この言葉は誰が言っているんでしょう。明かな?
「お前」と「私」に人物の名前を代入してみましょう。

お前は私を大嫌いなお前が大嫌いな私が大嫌い

森永は、明を大嫌いな森永が大嫌いな明が、大嫌い

森永は、明の事を大嫌いな森永、の事が大嫌いな明、の事が大嫌い

 

これを先ほどの要約に当てはめてみると

【「森永」は「僻んでいる明」のことが大嫌いだ】

となります。

 

これは明の心中を吐露した言葉なのでしょうか。それとも神(作者)視点からの断定、ネタバレでしょうか。私は前者の説を推したいと思います。

お前は私が大嫌い|アオリ文の意味

「心が見えない。ココロを見せない。悲しいのはどっち」

ココロが見えなくて悲しんでいるのは明でしょう。突然別れを告げられ、すぐ別の女性と仲良くしている森永さんを見ている明の心情は考えられません。

とすると、ココロを見せないで悲しんでいるのは森永という事になるでしょうか。ココロを見せていないというのは…塾や勉強に勤しむと嘘を付き、病院に通いながらもその嘘を貫いているという事でしょうか。

お前は私が大嫌い|扉絵の意味

扉絵では森永の体に多数の黒丸が書かれています。明には描かれていません。何故でしょう。ここでは2つの説が思い浮かびました。

①斑点好きの作者的には明にも入れたかったけど、話数やタイトル文字を入れる場所として白いまま確保した
②病気に侵された人と健常者の比較

私としては②を推したいと思います。その方が考察が綺麗にまとまるから、という消極的な理由です。すみません。

 

①の説が捨て切れない理由として、森永の後ろに立つ明の友達Aは真っ黒である事が挙げられます。(後ろに友達Bをはじめ複数名も立っていますが、彼女らは灰色です)

物語の主役である二人を強調させる為に本当は明にも斑点を入れたかった可能性はあります。ただ、入れた場合は表題をどこに配置するのかという話になってきます。

 

そして友達Aが黒である理由が本文中の伏線から読み解けない事から、「明は白、森永は斑点、友達Aは黒」とリズムよく配置した可能性も捨て切れません。白と黒の間に灰色を使用しなかったのは作者の癖だと思います。

逆に説②の理由から明と森永を描き分けた後に「友達Aを黒く塗ったら馴染みそうだ」と考えた可能性も残っています。

お前は私が大嫌い|森永の病状について

森永は眼皮膚白皮症…いわゆるアルビノではないでしょうか。彼女は作中で唯一、目が白く、髪も白い。他の人物とは明らかに別物として描かれています。

白皮症の方は弱視となる場合が多く、難聴となる場合もあると聞きます。その症状と思わしきシーンは作中に度々描かれていました。(本に顔を近づけながら読んでいる、目の前で明が倒れても反応しない等)

参考:https://www.dermatol.or.jp/qa/qa20/s2_q02.html、https://www.shouman.jp/disease/details/14_01_001/

 

また、白皮症の方々は皮膚癌となる場合も少なくありません。

「手鏡を見ている時間が長い」「髪を気にしている」という行為は抗がん剤治療前の患者が行う行為。より馴染むカツラを作る為に確認しているのでしょう。

 

皮膚ガンである事を前提に扉絵を見ると、森永の身体に浮かんだ斑点は森永が皮膚癌に侵されている事のメタファーに見えてきます。

全身に転移しているようにも思えますが、まだ投薬量は少ないのではないでしょうか。森永と明が距離を取ってから時間が経過している上で「シャンプーを薄めるのは無くなりかけた時だけ」と書かれている。
これは「投薬を始めると頭皮が敏感になる為にシャンプーを薄める方が多いけど、森永はまだそこまで行ってないよ」というメッセージとも受け取れます。

皮膚癌の進行度について

抗がん剤治療を行なっている事を考えると少なくともステージ2、扉絵の斑点が内蔵に転移している事を示しているとするとステージ4…5年生存率は10-30%と言われています。

参考:https://www.skgh.jp/department/oncology/anti-cancer/

お前は私が大嫌い|明と森永の関係について

明は森永のプライベートな情報を知っています。このことから予想されることは2つ。

①明は森永を監視していた
②明と森永は非常に親密な仲だった

②を推したいところですが、狂気交じりに話す明の様子を見ると①の可能性も捨て切れません。
もし普通にお風呂場でシャンプーを薄めて使う事を知ったなら、相手の状態にも気付きそうなものですが…うまく隠されていたのかな?

知ってたとしたら「もう遊べない」と言われて泣くのは不思議です。もっと前に泣いていたと思います。「余命宣告をされた」並みの言葉を告げられていたとしたら別ですが。

 

明は森永が不治の病である事を監視により知ったのではないでしょうか。

突然の別れを告げられた事で情緒不安定になり監視に走る明。そこで森永の通院が発覚、不治の病である事を知る。
森永は塾にも行っており、樋本と仲が深まっている事も知ってしまう。「私とは縁を切ったのに、樋本とは何故親密になるんだ」と憤る明。樋本の家まで尾け回してしまう。

行為はエスカレートし、森永の私生活の深い部分まで監視する事に。シャンプーの使い方、寝る前のルーティーンなどはここで知る事となる。

 

個人的にあの独白は明と森永の思い出から生まれた言葉だったと思いたいのですが、そうすると明が「あいつ、ムカつかない?」となる程モヤモヤする事に繋がらず、また、内緒にされていたはずの不治の病をどこで知ったんだ?という疑問が生まれます。

お前は私が大嫌い|樋本について

樋本さんは一体どんな人?
・耳が聞こえていない
→すぐそばで悪口を言われていても反応していない

・本当に塾に行っている?
→耳が悪いとすると、森永さんと出会ったのは病院ではないか

・森永さんは樋本さんの事をどれくらい想っている?
→知り合い以上、明未満…と思いたい。

耳が聞こえないとすると、塾の後に自宅で音楽や動画を見ていたというのは?

・説1|音楽や動画を見ながら点字や手話の練習をしていた
・説2|明の妄言。明と森永さんが行なっていた事を「どうせお前らもこんな風に遊んでいるんだろう」と卑屈になっている。
・説3|明が監視により確認した事実

苗字について

この話で苗字が明かになっているのは森永、樋本の二人です。「樋本」は西日本に多い姓。そして森永、樋本ともに広島県発祥の名前とする説があります。

これは出身地が同じ=仲が深まることの暗喩でしょうか。明の苗字は明言されていませんが…それは元々離れることが決まっていた事を示しているのでしょうか。

参照:森永|https://name-power.net/fn/%E6%A3%AE%E6%B0%B8.html、樋本|https://name-power.net/fn/%E6%A8%8B%E6%9C%AC.html

お前は私が大嫌い|お揃いのペンダントについて

NTR説を否定できない理由に「森永がペンダントを着用している場面が見当たらない」からです。明がペンダントをしているシーンはいくつもあり、これは森永に対して思いが残っている事の表れでもあります。

対して森永は見当たらない。これは明への思いが断ち切られている事の暗喩では無いかと思ってしまうのです。

明への思いが残っていて、なおかつペンダントを着用しない理由とは?「見えない箇所に付けている」「自宅に置いてる」と言った匂わせも見当たりません。

 

ここでヒントとなるのが扉絵のアオリ文です。

「ココロを見せない」のは森永ではないでしょうか。本当は辛いが明に自分を忘れさせる為にアクセサリーを外す事で、あえて距離をとった…なんて。綺麗過ぎるでしょうか。

お前は私が大嫌い|「嫌い」の意味

最後のページで明は「嫌い」と言う言葉を連呼します。これは「好き」の裏返しである事は明らかです。

ここでタイトルの「嫌い」を「好き」に入れ替えてみます。

【お前は「私の事を大嫌いなお前の事が大嫌い」な私の事が大嫌い】

【お前は「私の事を大好きなお前の事が大好き」な私の事が大好き】

これだと意味が分かりませんね。
では、明視点と思わしき部分だけ入れ替えてみましょう

【お前は「私の事を大嫌いなお前の事が大嫌い」な私の事が大嫌い】

【お前は「私の事を大嫌いなお前の事が大好き」な私の事が大嫌い】

ここに彼女たちの状況を加味すると

【お前は「私の事を大嫌いなお前の事が大嫌い」な私の事が大嫌い】

【不治の病である森永は「森永の事を大好きな明の事が」大嫌い】

となります。
いかがでしょう。このストーリーにマッチしていると思いませんか?

どちらにせよこのタイトルは、自分の判断が相手の行動に依存している姿勢を表しています。その時点で二人に結び付きが生まれ、互いに意識し合っていることが予想されます。

森永が明の事を思って距離を取ったと考える裏付けになるのではないでしょうか。

お前は私が大嫌い|まとめ

こうであってほしいという考察はこちらです。

 

不治の病を患っている森永。
何かあった時に、最も仲の良い明を悲しませない為に明と距離を取る。
※この時にお揃いのネックレスを外す事を決意

明は悲しみの反動で森永の後をつけてしまう事に。
そこで知った森永の真実。彼女の状態。

なんで黙ってたんだ、と憤る明

森永は塾にも行っていて、そこで樋本と出会う。
仲は深まり、相手の家に遊びに行くまでに。

この頃になると森永さんは耳も聞こえなくなり、視力も悪くなっている。
目の前で明が倒れていても気付かないくらいに。

 

作中、森永と樋本は明たちに一切反応していません。これは二人の世界と明の世界が今後決して交わる事がない事の表れではないでしょうか。

・まだ解けていない謎・

素手でポテトチップスを食べている理由、お菓子が関西限定である理由、アメフト走り、樋本さんの成績が学年一位である必要性、etc.

お前は私が大嫌い|本文中の考察

ポイントとなる情報、それに対する考察をない交ぜに書いています。

1ページ目

▷1コマ目-3コマ目
情報|森永が呼び掛けを無視する→声が聞こえていない?

▷4コマ目
明の首元にペンダント紐が見えている

▷6コマ目
情報|森永は「とっつきにくい」「愛想がない」

2ページ目

▷1コマ目
状況|喧騒の中、個々のグループがグループごとに談笑している
情報|明は3年生になってからも森永さんと仲が良かった

▷3コマ目
情報|森永から「大学受験のために塾通い始めたからもう遊べない」「じゃあ」と面と向かって言われる明。
※本文7頁目のセリフと異なる点が気がかり

▷5コマ目
状況|周りの人々が振り向くほどの大声で話し出す
情報|森永の情報「頭が良い」

3ページ目

▷1コマ目
情報|森永は「可愛い」「男子にちやほやされている」「すましている」→本当に声が聞こえないのでは
※森永が男性に興味が無く、明と百合だった?

▷3-4コマ目
情報|森永は「ポテトチップスをお箸(割り箸)で食べる」→素手でポテトチップスを食べることができない事情がある?→免疫不全の為多少の菌も取り入れることが出来ないのでは無いか。割り箸にするのもより徹底した滅菌姿勢の現れか。
※4コマ目、机の上に置かれたポーチと筆箱?の意図は不明。奥の机に置かれたお茶も不明
※そもそも教室でポテトチップスを一人で食べる動機は?

▷5コマ目
情報|森永は「いつも関西ダシ醤油味」
参考:https://www.calbee.co.jp/newsrelease/200916.php(カルビーポテトチップス・うすしお味のパッケージの変遷)
参考:https://mognavi.jp/food/696014(関西だし醤油味の連載当時のパッケージ)

4ページ目

▷4頁目、3コマ目
情報|関西ダシ醤油味のポテトチップスは地域限定品→物語の舞台が販売圏に含まれていない事が分かる→地域限定品のポテトチップスを知った訳は?→関西に行く用事があったのか?→関西圏に有名な病院があるのか?
※もしくはうすしお味と関西ダシ醤油味に何か製法の違いがある?
※「わざわざ取り寄せる」事までするような、ネットしかできない環境に置かれていた事があったのか→入院生活を送っていた事がある?
※味覚に問題がある?(濃い味を好む?塩より出汁?)
※森永という姓は西日本に多い名前。関西ダシ醤油味の分布と合致する。

▷4コマ目
情報|森永さんは「手鏡を見ている時間がすごく長い」「髪を気にしている」「全然変わっていない」→投薬による副作用を見越している?
※「全然変わっていない」は既にカツラになっていることを表しているように思えるが…
※腰より長いロングヘアーはカツラの材料にする為?

▷5コマ目
情報|森永は体育の時間にアメフト選手のような走り方をする→不明。意味深。必死で生きている姿勢の表れ?

▷6コマ目
情報|森永は「シャンプーが切れたら水で薄めて使っている」→その事を明は知っている→森永と話をして知ったのか、一緒にお風呂に入ったのか、監視して知ったのか

5ページ目

▷3コマ目
状況|背景に「保健室だより」が映される→次の話題(不治の病)への布石か

▷4コマ目
情報|森永が不治の病を患っている事が分かる→明には隠されていた→なぜ明はその事を知った?→別れた後に監視して知った?別れた後に「樋本」さんから聞かされた?
※別れ際に森永さんから告げられた可能性もあるが…

6ページ目

▷2コマ目
情報|明は森永さんから病を患っていない事実を聞かされていない?→別れた後に知った説が濃厚か

7ページ目

▷2コマ目
情報|明は「3年になったら受験勉強忙しいからもう遊べない」と言われた、と話している→2頁、3コマ目「大学受験のために塾通い始めたからもう遊べない」と文言が異なる→単にリズムを生む為の表記ブレと見て良いか

▷4コマ目
状況|明の声の大きさに多くの人が振り向く

8ページ目

▷2コマ目
状況|陽に照らされた廊下で、森永と樋本がノートを手にして何かを話している
情報|樋本は学年一位の成績
※森永さんは口元を隠している。そしてノートに目を近づけている→弱視の表現?

▷3コマ目
状況|森永と樋本の関係が語られる
情報|二人は塾が同じだったので簡単に仲良くなった。二人は勉強会という名目で家で遊んでいる
※塾とは病院や施設の比喩?耳が聞こえなくなってしまった時に備えて、筆談や点字の勉強をしていたりする?

▷5コマ目
状況|明の友人が「なぜそこまで知っているのか」と問いかける→答えはない。不穏な空気が漂い始める
※明の監視を示している?もしくは、それらの行動は明と森永が行っていた行動だった?

9ページ目

▷1-4コマ目
状況|明が森永の嫌いな部分を列挙する
情報|「風呂上がりに必ず1Lの水を飲む事」「寝る前に枕を叩く事」「電気を消して寝られない」「頻尿?」「冷え性?」など
※明の監視を示している?もしくは、明と森永は親密な仲だった?

情報|3コマ目、明が森永の登校時のルーティンを知っている事が分かる。
※明の監視を示している?もしくは、明と森永は親密な仲だった?→お泊まり会をしていた?

10ページ目

▷1コマ目
状況|過去の光景が蘇る。太陽の元、明と森永が笑顔で歩いている
情報|森永はネックレスを着用している

11ページ目

▷1-3コマ目
状況|明が倒れ、嘔吐する。周囲は明に注目。「嫌い」と連呼→胸元のネックレスが愛情の裏返しだと分からせる
※作中、現在の森永がペンダントをしている描写は見つけられず

▷4コマ目
状況|森永と樋本は明から顔を背けて笑い合っている→無視しているのか、それとも聞こえていないのか。更に森永は廊下に背を向けています→森永さんが眼皮膚白皮症であるとすると、日に照らされた中で誰が誰かを判断するのは難しいか。また、難聴も相まって本当に気づいていない可能性も。

樋本の存在意図は?森永の心が明から離れてしまっている事を示している?樋本も耳を患っている?

▷5コマ目
状況|森永と樋本の笑顔のアップ。屈託の無い笑顔。
※二人の間に窓のサッシが描かれている。これが二人の関係に溝がある事を示している?

お前は私が大嫌い|最後に

私は7頁、2-3コマと9頁から10頁にかけての流れがたまらなく大好きです。

このお話には阿部共実さんの全てが詰まっていると思います。モチーフ、物語の構成、漫画としての仕掛け、テンポの良さ、言葉選び。

深く考えず読んでも大変面白い作品です。意外な展開にハッとさせられるような作品が好きな方は是非ご覧になって下さい。

ABOUT ME
アバター
Ichiro
ウイスキーエキスパートのバーテンダーです。アイラ沼からやって来ました。得意技はタックルに合わせたフロントチョーク。苦手な技は足関節。人に助けられて生きてます。